名画研究会

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ゴッホの「ひまわり」は ”ほぼ単色だけ” で描かれた傑作 ~ロンドンナショナルギャラリー展~

 ■黄色を基調に描かれている

ロンドンナショナルギャラリー展で来日する「ひまわり」は、全11作品描かれたひまわりシリーズの中でも最高傑作と言われています。その理由は、とても完成度の高い"単色で描かれた絵"だからです。花と背景が同一系統色であるにもかかわらず、メインとなる花の存在感が損なわれていません。それどころか黄色の美しい調和が際立っています。これまで多くの画家が同様の挑戦をしていますが、ゴッホの境地に達した画家は一人もいないと言われているほどです。

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ひまわり(1888)/ ロンドン・ナショナル・ギャラリー

ゴッホは、アルルで「ひまわり」を制作する以前から黄色い背景に黄色い果物を描いた作品を手掛けていました。印象派や新印象派が重んじた光学理論や色彩理論を学んでいた時期と重なります。

その頃の作品がこちら。

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マルメロ、メロン、梨、ブドウのある静物(1887)/ ファン・ゴッホ美術館

こうした試行錯誤の末、傑作と呼ばれる「ひまわり」を完成させたのですが、ここで気になるのが”なぜゴッホのひまわりは完成度が高いと評されるのか”ですよね。それは、光学理論や色彩理論を取り入れつつも点描画法といった画法は継承せず、新しい画法を確立させたからです。ゴッホは、筆使いのバリエーションだけで筆の働きを見せ、単調になりがちな単色の絵にメリハリ立体感を与えることに成功しました。

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比較してみると、筆致に違いがあることが分かります。右側のひまわりは、するりと筆を滑らせてひらひらと描かれ、一方で左側のひまわりは、ばさばさと大胆な筆使いで平面に浮き上がるように描かれています。

 

■筆致の変化はゴッホの内面をも表現

ゴッホの「ひまわり」は、内面を強力に表現した絵だと言われています。「ひまわり」を描いた時、ゴッホは希望に満ち溢れていました。その時の感情が力強く勢いのある筆致に表れており、ゴッホの喜びが表現されているのです。比較として、新印象派を代表する画家ジョルジュ・スーラの作品をご覧ください。

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グランド・ジャット島の日曜日の午後(1884-1886)/ シカゴ美術館

スーラは点描画法を用いる代表的な画家ですが、彼の絵はキャンバス上に筆致を残さず、無数の「点」を並べる方法で描かれています。均整のとれたその絵からは、彫刻のような静けさや清廉さを感じさせます。一方で生気やエネルギーは感じ取れず、 燃え上がるようなエネルギッシュなタッチで筆致を残し描かれた「ひまわり」とは対照的だということが分かります。ゴッホにはスーラほどの根気強さがなく、スーラのようなアプローチが出来なかったという説もありますが・・・画家の個性は何が幸いするか分からないもので、ゴッホの絵にはスーラの絵にない魅力があるということです。

全4回にわたりゴッホの「ひまわり」を掘り下げてきました。「ひまわり」が描かれた背景やストーリーを知ることで、実物を目にした時の感動が何倍にも膨らむはずです。私自身ロンドンの「ひまわり」を観るのは初めてなので、対峙した瞬間に何を感じるのかとても楽しみです。

 次回は同じくロンドン・ナショナル・ギャラリー展で来日するフェルメールの「ヴァージナルの前に座る女」を取り上げたいと思います。

 

〈おまけ〉

実は、5作目のひまわりは日本にあります。4作目と5作目、ひまわりのはしごはいかがでしょう。こんな贅沢は日本人にしか許されません。

◆4作目ひまわり(ロンドン・ナショナル・ギャラリー展)

https://artexhibition.jp/london2020/

◆5作目ひまわり(SOMPO美術館)

https://www.sompo-museum.org/

 

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解説の動画版はこちら↓


【完全解説】ゴッホの ”ひまわり” が名画と言われる理由!~ロンドンナショナルギャラリー展~