名画研究会

「なぜこの絵は名画と呼ばれるのか」を追求しています。youtubeチャンネル「Masterpiece Lab.」も更新中。

【前編】クリムト「接吻」が名画と呼ばれる3つの理由

今回の名画は、グスタフ・クリムトの「接吻」です。

この絵がクリムトの最高傑作と呼ばれる理由 ①超現実 ②官能美 ③深い精神性

について解説していきたいと思います。  

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【タイトル】接吻(The Kiss)(1907−1908)

【作者】グスタフ・クリムトオーストリア  1862−1918/享年56)

【様式】アール・ヌーヴォー/黄金

【サイズ】180cm × 180cm

【所蔵】ベルヴェデーレ宮殿オーストリア

 

黄金のベールに包まれた男女が抱き合い、男性が女性の頬に口づけをしています。そして、女性はそれを受け入れ、官能的な表情を浮かべています。しかし、恋愛の歓びに没頭している男女が描かれているのは断崖絶壁です。果してクリムトがこの絵に込めたメッセージは何なのか。

クリムトは多くを語らない画家であった為、推測の域を出ない部分もありますが、この作品がオーストリア門外不出の国宝となり、現在も我々を魅了し続ける所以に迫りたいと思います。

 

 名画と呼ばれる理由① 超現実


「接吻」が名画と呼ばれる一つ目の理由は、独創的な超現実の表現にあります。


西洋美術は、伝統的に「目に見える景色や手で触れて確認できる三次元の世界を平面に表現する写実」を追求してきました。19世紀後半に登場した印象派は、自由な筆致と明るい色彩で絵画に革命を起こしましたが、それはあくまで目の前の光を捉えようとする方法であり、西洋美術の伝統から脱してはいませんでした。

印象派を代表する画家、クロード・モネポール・セザンヌの作品がこちらです。

 

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散歩、日傘をさす女(クロード・モネ / 1875)

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カード遊びをする人々(ポール・セザンヌ/1892-96)

クリムトは、こうした印象派までの画家が取り組んできた「現実の再現」を逸脱して一種の超現実を描こうとしました。超現実とは、現実を超えた現実のことであり、後のシュルレアリスムに受け継がれる概念です。

 ※シュルレアリスム(超現実主義):  理性や道徳から解放され、純粋な心の動きを表現しようとする20世紀の美術運動(1920年頃~)

当時、超現実の表現を試みること自体は珍しくなく、クリムト以外にもムンクゴーギャンが試みてきました。下記2作品は、どちらも現実を逸脱した超現実の世界観があります。

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叫び(エドヴァルド・ムンク / 1893)

 

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黄色いキリスト(ポール・ゴーギャン/1889)

その中でもクリムトの特徴的な点は、超現実を「装飾」を用いて表現したことです。

小芸術として伝統的に格下に見られていた「装飾」に可能性を見出し、そこに「人間を異次元の世界に導く象徴」とされていた「金」を用いた点は画期的でした。

※ 大芸術→ 建築、絵画、彫刻 / 小芸術→ 装飾、工芸品

「絵画」と「金による装飾」を融合させて独自の超現実をデザインすることに成功したことがクリムトの真骨頂なのです。

「接吻」では、見えないものを抽象化してデザインしている点も見どころです。男性の衣装に「四角(直線)」、女性の衣装に「丸(曲線)」を用いて性別を形で表現ているのが分かります。平面的で存在感ある衣装を纏った男女は、衣装を纏っていると言うよりも装飾と融合しているという印象を受けます。

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男性の衣装                 女性の衣装

 

次回は、「接吻」が名画と呼ばれる理由②官能美 に迫ります 〉〉〉