【前編】英国風景画家 ターナーを10の視点から解説 〜ロンドンナショナルギャラリー展〜
ロンドンナショナルギャラリー展にターナーの「ポリュフェモスを愚弄するオデュッセウス」が初来日しています。
ゴッホやレンブラント、フェルメールなどと比較すると、日本ではどうしても知名度の劣るターナーについて、10の視点から解説していきます。今回はその前編です。
①英国風景画の巨匠
ジョセフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775〜1851)は「風景画に生涯を捧げた」と言われるほど風景画が有名なイギリス人の画家です。自然への賛美や個人の主観や感情に重きを置いた「ロマン主義」を代表する作家としても知られています。76年間の人生で大量の水彩画、油彩画、版画を残しており、その多くをイギリスのテートギャラリーが、また一部の有名作品をロンドンナショナルギャラリーが所蔵しています。
②ターナーの代表作
「雨、蒸気、速度ーグレート・ウェスタン鉄道」はターナーの晩年期に描かれた大作です。西洋美術史で初めて「スピード」をテーマに描かれた作品で、イギリスのみならずヨーロッパ美術史においても重要な作品とされています。激しい嵐の中で、テムズ川にかかる橋を豪快に渡る蒸気機関車。嵐と共に産業革命の象徴を描くことにより、自然のエネルギーと人為的なエネルギーの拮抗を表現しています。この作品もロンドンナショナルギャラリーが所蔵しています。
③印象派に多大なる影響
ターナーには直接的な弟子はいませんでしたが、光と色彩を用いた抽象的な描き方は、印象派を代表するクロード・モネやカミーユ・ピサロなどに間接的に大きな影響を与えました。モネとピサロの2人は1870年にロンドンを訪れています。その時にロンドンナショナルギャラリーでターナーの作品に触れ、その絵の独自性に大いに感化され、ターナーの表現方法を参考にしたと言われています。
④手本とした画家 クロード・ロラン
クロード・ロランはターナーの風景画の手本となったフランス人の画家です。当時はローマで活動しており、自然と人工物を組み合わせた「理想的風景画」の第一人者として知られています。神話的な題材を風景の中に織り込み、理性と感性に訴える作品を多く描いています。これらの作品は17世期のイギリスの美術愛好家に熱狂的に支持されました。彼の作品を見本に作られた庭園ストアヘッドは今でもイギリス最高峰の庭園として知られています。またターナーはこの庭園を何枚もスケッチしており、大きな影響を受けていたことがわかります。ロンドンナショナルギャラリー展ではクロード作の「海港」が初来日しています。
⑤早熟の天才
ターナーは14歳で英国ロイヤルアカデミーの美術学校に入学しています。翌年の15歳の時には最初の水彩画《ランベスの大主教宮殿の風景》がアカデミーの展示会で入選。21歳で初の個展を開催、26歳で当時最年少でアカデミー正会員になるなど、若い頃からその類稀な才能を開花させていました。正会員になった後、ターナーの作品の販売価格が更に高騰したため、すぐに資産家の仲間入りを果たしました。しかし、ターナー自身の生活はつつましいもので、作品作りに必要な物以外は買わなかったそうです。
⑥~⑩については次回に続きます。
名画研究会