名画研究会

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【後編】フェルメール「ヴァージナルの前に座る女」に秘められた意味 ~ロンドンナショナルギャラリー展~

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ヴァージナルの前に座る女(1672)/ ロンドン・ナショナル・ギャラリー

■2種類の楽器が持つ意味

この絵には2種類の楽器が描かれています。ひとつは作品名にも入っているピアノのような鍵盤楽器、ヴァージナル。もうひとつは左下に描かれているチェロのような弦楽器、ヴィオラ・ダ・ガンバです。実はこれらの楽器には男女の「愛」「恋愛」というテーマが込められています。楽器は愛の女神であるヴィーナスのこどもたちのアイテムであり、古来より男女関係を表す小道具として様々な絵画に登場しています。

■真珠のアクセサリー

フェルメールの代表作「真珠の耳飾りの少女」でも描かれている真珠。本作ではネックレスとして描かれています。ダイヤモンドが「権威」など男性的な意味合いを持つのに対し、真珠は「女性の純潔さ」を表す象徴として、ルネサンス期のイタリア人画家ティツィアーノの作品にもネックレスとして登場しています。

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(左)ヨハネス・フェルメール 真珠の耳飾りの少女(1665年頃)/ マウリッツハイス美術館 (右)ティツィアーノ・ヴェチェッリオ ヴィーナスとオルガン奏者とキューピッド(1555年頃)/ プラド美術館 

■画中画の「取り持ち女」

フェルメールは絵の中に絵を描く「画中画」にも意味を込めています。それが右上に描かれている「取り持ち女」です。この絵のオリジナルはオランダの画家ディルク・ファン・バビューレンの作品で、フェルメール家が所持していたものです。フェルメールも同じ題材で絵を描いています。娼婦と客、その間を取り持つ老婆を描いたこの作品は金銭や性愛をめぐる人間の欲望がテーマとなっています。

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(左)ディルク・ファン・バビューレン 取り持ち女(1622) / ボストン美術館 (右)ヨハネス・フェルメール 取り持ち女(1656)/ アルテ・マイスター絵画館

■意味を知り、その狙いを考える

楽器が男女の「愛」「恋愛」を、真珠が「女性の純潔さ」という意味を持つ一方で、画中画には「人間の欲望」という意味が込められています。フェルメールはこの絵によって愛や恋愛のすばらしさ、純潔な女性の美しさを表現しつつ、その裏にある人の欲望などを伝えたかったのかもしれません。解釈は人それぞれです。描かれたアイテムの意味を知ったうえで、フェルメールが絵に込めた思いを読み解いてみてください。

 

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